【書評】カラフル
ろぽんでございます。
森絵都の『文春文庫、高校生が選んだ、BEST10』で1位を獲得した『カラフル』です。
作者は色々な文学賞を受賞しており、『風に舞いあがるビニールシート』で第135回直木賞を受賞しています。
本作はアニメ映画と実写映画にもなっており、人気作になっています。
実写映画には女優として大変、珍しいことに阿川佐知子も出演しており、本書の解説も行ってくれています。
あらすじという名の導入、紹介文
生前の罪により輪廻のサイクルか
ら外されたぼくの魂が天使業界の
抽選にあたり、再挑戦のチャンス
を得た。自殺を図った少年、真の
体にホームステイし、自分の罪を
思い出さなければならないのだ。
真として過ごすうち、ぼくは人の
欠点や美点が見えてくるようにな
る……。老若男女に読み継がれる
不朽の名作。 解説・阿川佐和子
物語を通じて感じる魅力
あらすじを読むだけで、手に取りたくなる本じゃないかなと思っています。
生き返るというのがファンタジーなだけで、そこにはどこにでもある家庭や学校の日常が描かれています。もちろん、どこにでも起こる問題も。
そこで起こっていく当たり前で普通で、けれどだからこそ共感できる喜びや楽しみや、なにより、真が自殺を選んでしまった悲しみや、けれどそれ以上に人生は生きてこそ、その先がある希望にあふれています。
普通の人の抱えている矛盾を、それに苦しむ思春期の女子中学生を、母親の過ちを、父親の寡黙を、兄の怒りを、友達のなにげない言葉を、自分にとって日常をしっかりと切り取ってくれていた存在に、どこか憎めない愛すべき天使に、その全てに心を動かされます。
手触りというか、肌触りが、どこかリアルなんです。
最後に
物語のとっかかりは、不思議なことが起こりますが、これは普通のきっとどこにでもいるような中学生の一人を語った話です。けれど、それを書ききったからこそ、普遍的な共感を生み出す作品になっています。
だからこそ『ぼく』の存在に、いら立ちも感じるし、行動の青臭さに恥ずかしいとも思うし、最後おめでとうという気持ちにもなります。これは高校生のアンケート結果で1位になった作品なので、学生のほうがもっと今のこととして、共感できるのでしょう。
けれどみんなあの学校という空間を、思春期での家という時間を過ごしている、そこでのことを思い出させてくれる貴重な書籍です。
親になっている人は昔を偲びながら、我が子のことを思うこともできるのではないでしょうか。
文章もよみやすく、くせもないので、どの世代の方にも一度、読んでほしい一冊です。