【書評】表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬
ろぽんでございます。
オードリー若林正恭による2冊目の書籍、キューバ旅のエッセイ本です。
日本旅行作家協会が主催する第3回斎藤茂太賞を受賞しています。
正直オードリーの若林より、春日のほうが好きだったんですが、『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込み』を読んで、「まるで自分のことじゃないか!」と共感して、勝手に親近感をもつようになりました。
簡単にいうと思春期が長くて、最近ようやく大人を楽しめるようになった人って感じです。
私もだいたい大人なところと子どものところのバランスが悪い人間なので、なんだか他人の気がしません。
そんな若林が二十代になっても引きずっていた自意識の塊を、なにかと戦ってきた幻想を、資本主義下の自由競争秩序を重んじる考え方である『新自由主義』という言葉にみることになります。この競争原理のなかで、もがき続けた二十代をふりかえり、今もなお縛られ続けていると実感して。
そこで社会主義国のキューバに思いを馳せるのです。
夏休み5連休がとれたその使い道は決まったようなものでした。
キューバに来てからの3泊5日の旅は若林を開放的にしました。現地のガイドを雇いカストロを中心とした革命軍にまつわる名所をまわり、キューバのレトロで、決して豊かではない、けれど自由な人と街並みと野良犬を堪能します。
後半は現地の日本人に案内され、観光地ではない現地のキューバ人に対してのゲストとして扱われ、キューバ―の文化を深く知っていくことになります。その様子の眩しさや陽気さが文章のひとつひとつからにじみ出てきます。
一人で海辺によった際にアクシデントにあうわけですが、その後、語られる何故キューバにきたのかという本当の理由がまた涙を誘います。
東京で働く意味を再発見して終わる訳ですが、そこに若林の人間性がでていて、すごくいいです。
そうか、
キューバにいったのではなく、
東京に色を与えに行ったのか。
だけどまたこの街は灰色になる。
そしたらまた、網膜に色を映しに行かなければ僕は色を失ってしまう。
このエッセイはこの文章に集約されます。
またこのエッセイを読むことによって、その意味を理解させられます。
日本社会で働いていて疲労を隠せない人ほど、読むべき一冊にしあがっています。
きっとこの本を読めば、最後にあなたの心に色づくものがうまれるでしょう。
それがあなたにとって血の通った素敵なものであることを祈っています。