【書評】ドキュメント戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争
ろぽんでございます。
元NHKディレクター高木徹の書著、NHKスペシャル『民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕~』の取材を元に書かれた本です。ボスニア紛争における情報戦争の裏幕。アメリカのPR会社が果たした役割を描いています。
物語の概要
「情報を制する国が勝つ」とはどういう
ことか――。世界中に衝撃を与え、
セルビア非難に向かわせた「民族浄化」
報道は、実はアメリカの凄腕PRマンの
情報操作によるものだった。国際世論を
つくり、誘導する情報戦の実態を圧倒的
迫力で描き、講談社ノンフィクション賞
新潮ドキュメント賞をW受賞した傑作!
ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国ハリス・シライジッチ外務大臣とアメリカの大手PR会であるルーダ・フィン社ワシントン支社ジム・ハーフ国際政治局長との会合から旧ユーゴスラビア内戦の勝敗を左右する『情報戦』の第一歩がはじまります。
この当時、指導者チトーの死去と共に四十年あまり存在していた社会主義国ユーゴスラビア連邦は崩壊。冷戦崩壊もあり民族独立の機運が高まり、スロベキアが独立、次にクロアチアが独立しました。連邦国を牛耳っていたセルビア人は自らの権威を守るため、各連邦の共和国の民族と争っていました。
独立して間もなく核も石油もないモスレム人の国、ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国はこの紛争を生き抜くために諸外国との折衝をもちますが、国連に影響力のある大国に対して、交渉力をもちません。
そこで登場するのがアメリカの大手PR会社であるルーダ・フィン社となります。
同社のハーフが得意とするのは外国の政府、国家をクライアントとし、国益を最大化することです。貿易振興や観光誘致といった仕事もありますが、戦争というもっとも大きな国益がかかる場面で、その政府にかわってPRを担当することです。
ハーフが担当することにより、シライジッチは鍛えられ広告塔に。アメリカの政治、国務省やアメリカの大手新聞社、メディアに対して接触をはかり、はては国連を巻き込み、ボスニア紛争を世界世論で無視できないところまでもってきたうえで、『モスレム人=被害者』『セルビア人=加害者』という構図を作り上げ、『民族浄化』という血みどろのキャッチコピーが産み落とされることになります。
最後に
グローバリズムの波は紛争や戦争といったところにも波及し、それさえ影響を及ぼしえるのがアメリカの一企業なのかと愕然とする内容です。実際の国家の戦力という「実」とは別に情報戦やPRにおいて「虚」の戦いがいかに趨勢を判断する上で重要かを示しています。戦争を今までと異なった角度から知ることができるので、一読するに値する本だと思います。とても業が深い考えさせられる本です。
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