【書評】歌集 滑走路
ろぽんでございます。
ニュースウオッチ9やクローズアップ現代+に取り上げられた、歌集では通常の200倍と異例の売上を誇る萩原信一郎の第一歌集です。
享年三十二歳で自ら命を絶ったその歌集からは、ご本人の生き様や同じような人へのエールがみてとれ、多くの人に共感を覚えさせる短歌になっています。
作者は学生時代の野球部でのいじめを機に、その後、精神的不調和がつづき非正規雇用で働き続ける人生を歩みます。十七歳の頃、近所の書店で俵万智と出会い、短歌の世界にのめり込みながら。
自死する近年においてはたくさんの賞を受賞しています。
作者は恋の歌も詠んでいる訳ですが、その恋が実ることはありませんでした。
自死する半年前には仕事も休みがちだったそうです。
作者の母の手記には、普通だったら結婚とか子どもとかいう年齢だよと、自らの境遇の辛さを嘆いておられたようです。
そんな作者の珠玉の短歌を一部紹介させて頂きます。
更新を続けろ、更新を ぼくはまだあきらめきれぬ夢があるのだ
まだ早い、まだ早いんだ 焦りたる心は言うことを聞かない犬だ
プロ野球選手になれず月の夜に歌人になりたいと思う窓辺に
作業室にてふたりなり 仕事とは関係のない話がしたい
牛丼屋頑張っているきみがいてきみの頑張り自給以上だ
消しゴムが丸くなるごと苦労してきっと優しくなってゆくのだ
角砂糖みたいに職場に溶け込んできたり入社後二ヶ月経ちて
箱詰めの社会の底で潰された蜜柑のごとき若者がいる
皆さんはどう感じたでしょうか?
私は哀切につまる切迫した状況を感じながらも、そこから未来へ向かって、前向きにがんばろうとする姿がみてとれて、とても眩しく暖かなものに触れた気がします。
作者の人間性の暖かさに、それを紡ぐ事のできる情熱に、早年で亡くなったことが残念でなりません。
普段、短歌を詠まない私の心にも届く、その言の葉は一介の物書きとして尊敬してやみません。
歌集なので、読了するのは早いですが、余韻がずっと続く書籍になっています。
何度も読み返したくなる一冊です。
今週のはてなブログのお題「読書の秋」でした。