【書評】砕け散るところを見せてあげる
ろぽんでございます。
『とらドラ!』『ゴールデンタイム』で有名な竹宮ゆゆこの新潮文庫nex出版の一冊です。
元ライトノベル作家だけあって、キャラクターの掛け合いがメインとなります。伊坂幸太郎の推薦文にあるのですが、「この作家は、キャラクター小説を、小説の持つ悦びの深いところにまで繋げようとしています」っていうのが至言ですね。
キャラクターの心情を書ききることによって、小説の世界でしか伝えられないものをしっかりと伝えてくれる作品になっています。一言でいうと心を打たれます。
物語で表現されていること
物語はおせっかい焼きの清澄という男子高生がいじめられっこの玻璃という後輩の少女と恋をする話です。でもその恋の執着地点がすさまじいところに着地します。
それはもうサスペンスであり、ホラーであったりするのですが、一番の見どころは生死に関わる場面が出てくるような展開模様ではなく、そこへと至る際にみせるキャラクターの覚悟です。
その様のなんと美しいことか。
現実にはいないだろうけど、小説の中だからこそ、許されるひとつの形と申しますか、そこまでに至る玻璃の慟哭や主人公の献身性に心を揺り動かされます。
まさに題名の『砕けちるところを見せてあげる』を読者はこれでもかと目撃することになります。そんなふうにキャラクターの心情を動かせる作家を竹宮ゆゆこを除いて、私は知りません。
UFOという独自の表現
この作品世界の中で、たびたび出てくるUFOという描写があります。
これがとても秀逸でちょっと普通の作家ではこんな表現はできない。
頭上にあるUFOの存在がなんなのか、またそれをどうしたらいいのかというのが、物語上とても重要なキーワードになっており、またそれが読み手にとってのUFO、自分を縛るものってなんだろうと、とても考えさせられる内容になっています。
表現が独特なのに、その言葉には普遍性が宿っているんですね。
最後に
この小説は何度もいいますが、キャラクター小説です。
そういったものを嫌う人もいるでしょうが、だからこそ表現できるものがあるというのを、一度読んで味わってほしい作品になっています。
単純にキャラクター小説が好きな人には純粋にすすめられる内容になっていますしね。
心になにかしらを残してくれる熱量のある作品なので、どうぞ機会をみつけて、手にとってみて下さい。
あなたにとってのUFOに思いをはせて頂けると幸いです。
また、それをもし救いとできれば、この作品をすすめた私のこれ以上の喜びはきっとありません。