【書評】何者
ろぽんでございます。
平成生まれの新生、朝井リョウの傑作『何者』の紹介となります。
ラジオパーソナリティーなど、メディアの露出も多く、非常に細かく企画を固めていくオープンにもクローズにも感じてしまう突き詰める男の、とても構成のうまい小説です。
大学から作家デビューして、ダンスサークルに所属していたという、その経歴もユニークです。
わずか24歳で『何者』で直木賞を受賞しており、今後が期待される作家でもあります。
あらすじという名の導入、紹介文
就職活動を目前に控えた拓人は、同
居人・光太郎の引退ライブに足を運
んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると
知っていたから――。瑞月の留学仲
間・理香が拓人たちと同じアパート
に住んでいると分かり、理科と同棲
中の隆良を交えた5人は就活対策と
して集まるようになる。だがSNS
や面接で発する言葉の奥に見え隠れ
する、本音や自意識が、彼らの関係
を次第に変えて……。直木賞受賞作。
物語を通じて感じる魅力
就職活動の話です。
Twitterが出てきます。
ミステリーです。
この3つが重要な話になっているのと、今の大学生の心情をリアルに描きつつ、読者の裏を本当に緻密な構成によって、うまく突いてきます。題名回収もしてやったりという感じがすごいです。
空気感が若手作家にしか書けない内容になっている上に、文章力も高く、なにより作者の力量が年齢に比例せずあるうえ、よくもまあ、こんな最後にどんでん返し、させてくるなと唸らさせます。
年齢を考えると自分の作品をここまで客観視できるプロットを練れたことに驚嘆します。
素直にすごいです。
最後に
読み終えたときに主人公の拓人に対し、何を思うか。
人の心の暗部を、安い希望を、温い自己愛をここまでえぐりだすとは素晴らしいです。
よく人間観察が好きという人がいますが、それが極まっている人なんだろうと思います。
そして、それを自分の血肉にしている。だからこそ、登場人物から血の通った言葉が出てくるんでしょうね。
「今までは一緒に暮らす家族がいて、同じ学校に進む友達がいて、学校には先生がいて。常に、自分以外に、自分の人生を一緒に考えてくれる人がいた、学校を卒業するって言っても、家族や先生がその先の進路を一緒に考えてくれた。いつだって、自分と全く同じ高さ、角度で、この先の人生の線路を見てくれる人がいたよね」
瑞月が隆良に語り掛けるシーンの台詞なんですが、この『線路』という表現の秀逸さと、このことを瑞月が語ることに意味があるんですね。このシーンを読むだけでも、この小説は価値があります。