【書評】完全なる首長竜の日
ろぽんでございます。
第9回このミステリーがすごい大賞を受賞した乾緑郎のデビュー作『完全なる首長竜の日』です。
佐藤健、綾瀬はるか主演で映画化もされています。
このミス受賞作だけあって、ミステリー小説として面白い作品になっており、近未来的SF要素もあります。
あらすじという名の導入、紹介文
第9回『このミス』大賞受賞作品。
植物状態んあった患者とコミュニ
ケートできる医療器具「SCインタ
ーフェース」が開発された。少女
漫画家の淳美は、自殺未遂により
意識不明の弟の浩市と対話を続け
る。「なぜ自殺を図ったのか」とい
う淳美の問いに、浩市は答えるこ
となく月日は過ぎていた。弟の記
憶を探るうち、淳美の周囲で不可
思議な出来事が起こり――。衝撃
の結末と静謐な余韻が胸を打つ。
物語を通じて感じる魅力
漫画の連載が終了した主人公・淳美が「SCインターフェイス」で意識不明の弟の浩市と対話をしていく中で、自らの過去を思い返していく話になっています。
作中では『胡蝶の夢』とサリンジャーの『バナナフィッシュ』がよく取り上げられるのですが、こちらが物語の先行きを予感させていきます。
祖父や母親への愛憎が描かれ、過去の描写も夢うつつの中、どこかリアルに描かれている。酩酊感のある小説です。
読み進めていくと、ミステリーとしての回答が提示されていくわけですが、それだけに終わらず、語りきらないところに、ラストの印象的なシーンへと、他作品では語り切れない読後感を味わうことができます。
最後に
小説だからこそ見せられる淳美の心理描写が、そのままこの作品のミステリーとラストにつながっていきます。
2011年の作品ですが、新人作家のミステリーを読んでみたい人にはおすすめの作品になっています。なかなか面白い内容になっていますよ。
また、ミステリーが好きな方だと、この作品の骨子になっている、過去の名作ミステリーに思いを馳せるのも、楽しいかもしれませんね。解説にもその辺りの指摘があったりするので、答え合わせのようにすると、それも楽しいですよね。
映画化の主演キャストである佐藤健、綾瀬はるかであるという一般視聴者になじみ深いところからも分かるように、ミステリーにあまり関心のない方でもストーリーとして一定の完成度があり、読み進めていく中での驚きと読み応えを感じさせる作品になっています。
このミスの選考委員が海藤尊『チームバチスタの栄光』以来、満場一致で大賞に推した作品となりますので、この機会に是非、一度ご覧になって頂ければと思います。