【小説】別れのクリスマス
「ばいばい」といつものように君は去っていった。
まるで近くのコンビニによるかのような気楽さで扉は閉まる。
二度とその扉は君の手で開かれることがないことを知っている。
喜びも悲しもすべて分かち合ったと思えるほど好きだったことを忘れる事はできない。
けれど、この日々を永遠にと願う事はもう許されず、一体、君の何を捨て、何を残そうか。
最後のクリスマス。
浮かぶのは君の笑顔だけだ。
聖夜を別れのプレゼントを手にして、自宅のマンションに向かう傍ら、どこかから聞こえてくる鐘の音は君の夢を祝福し、僕らの別れを鎮めてくれるのだろうか。
家の中には小さなツリーが着飾ったオーナメントが輝く、君が用意した七面鳥や濃厚なホワイトシチュー。
シャンパンを開ける始まりが胸に痛い。
味わう料理となんでもない会話を繰り広げ、その幸福が胸の痛みに響いていく。
時間などあっというまで、ずっと続く時間などなく、当たり前だと思っていたその瞬間、瞬間が、コマ送りになることなどなく、終わりへと向かう。
いつものように残酷に。
もう二度とこない未来へと向かって。
君は未来へ向かい。僕は過去に残る。
心を半分砕かれて、なにで半身を埋めようか。
君との思い出は幸せだけど、一つ線をひかれ、もう今は辛い。
君と違う前を向いて歩く道はどこにあろうだろう。
傍らに君のいない未来をどこに思って生きようか。
まだそう思う事が僕にとっては切ない。
痛みはまだ生々しく、心にはまだ君があふれている。
僕はちゃんと君を見送れただろうか。
君の夢に殉じれただろうか。
それを答えてくれる君はもういない。
クリスマス後の一日を当たり前のように過ごす。
冗談をいい、世間話をして、仕事をこなす。
いつものような僕でいられるけど、心には痛いほど君が根付いている。
目まいがしそうだ。
狂おしいほどあふれるこの感情をどうやって癒そうか。
吐き出せない愛情は狂気に等しいとはじめて知った。
もう届ける事のできない思いを僕はどうしていこうか。
君という幻を心に抱き、半身から血があふれる。
人間はこうやって強くなると悟るにはまだ傷口が生々しい。
ああ、せめて今日だけは情けなく泣いてしまおうか。
もうかっこをつける必要もないのだから。
ただ、ただ君が恋しい。
情けないけれど、君が恋しい。
もう届かなくとも、愛せなくとも、あの日常がもう二度とこないという事実を理解していても、君を偲ばずにはいられない。
愛しき人よ。
どれだけ心が痛んでも君を愛さずにはいられない。