【小説】お兄ちゃんと妹~妹サイド~
お兄ちゃんが休日にリビングのソファーでくつろいでいる。
大きな犬が丸まったような姿に思わず頬がゆるむ。
けれど、スマホの内容が女子との連絡と見えて、目が自然と細まってしまう。
これくらいの距離なら、書かれている内容にも目が届き、許しがたいやりとりが続いているのが分かる。
デートの約束だ。
しかもクリスマスのようだ。
邪魔することは決定事項だった。
お兄ちゃんに呼びかけると、ゆるんだ顔でこちらに振り向いてくる。それがなんだかむかつくので、こういってしまう。
「私、彼氏と別れたんやけど」
「はいっ!?」
物凄く驚いた顔をされて、私は心の中で舌を出す。
もちろんそんな人はいない。
「クリスマス前やのに独り者になってもうた、どないしょ~」
素知らぬ感じでそういと、お兄ちゃんは全力で首を横に振って、待ったをかけてきた。こういう時のリアクションがいちいち笑えて、少しかわいい。
「状況を整理させろや!」
私が返答がわりに首を曲げると、お兄ちゃんは頭を抱えて、めちゃくちゃ私のことを考えてくれているのが分かる。
「えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? 別れたって? そもそも彼氏いたんか? お前、妹が、彼氏って? えっ?」
「うん、いたよ~」
「聞いてへんわ!」
そりゃー、いないんだし、言わないよね。
「妹、そいつと別れてこいや!」
「だから、別れたって~。お兄ちゃん、変やな~」
かなり混乱しているようで、言っていることがよくわからない。それが嬉しくて、少し申し訳ない気持ちにもなる。でもやっぱりだから嬉しいのだ。いけないなっと思いつつもそういう気持ちには嘘がつけない。
「妹よ。お兄ちゃんに黙ってそいつの連絡先をいうんや」
「駄目やって、お兄ちゃん、目が怖い」
「なんでや!? ちょっとうちの妹と付き合ったという奇跡の代償を回収しに行くだけやろうが! 地獄まで追い込まんと!」
「クリスマス近いのに、地獄はないんちゃうかな~、お兄ちゃん」
なんだかもう愛されてるなと思って、自然と笑みが浮かんでしまう。
ああ、駄目だ。こんなふうに幸せを感じてしまう。
「なにがおかしいんや! 妹よ!」
「え~? お兄ちゃんはおかしいな思うて」
「俺をおかしくさせとるんわ! お前やで! 妹よ!」
「そうなんや、悪い女やな~、私」
ああ、本当にそう思うよ。そしてお兄ちゃんはかわいそうなくらい純粋、でもだからこそ甘えてしまうのだ。
「……そういや、クリスマスどうするかっちゅう話やったな」
「せやね~、一人で街中歩いてたら声かけられるんかね~」
だからついこんな言い方になってしまう。
「わかった! お兄ちゃんとルミナリエでも行こう! な!? 色々な意味で心配や!」
「ええのん?」
こんな小賢しい妹なのにいいの? と心の中で呟いてしまう。
「ええもなにもあるかいな、決定! ほな決定や!」
「お兄ちゃん、ありがとうな~、大好きやわ」
本当に、本当に大好きだ。
ああ、この人はせっかく彼女になってくれそうな人より、私を優先して受け入れてくれる。それを本当に喜んでいる姿はみせられないけれど、私がそのことにどれだけ安心したかはみせられないけれど、クリスマスを一緒にいられるだけで、それだけで大満足だ。
それ以上はどうか望まないから、もう暫くお兄ちゃんにとって一番の妹でいさせてね。
本当に、大好きだよ、お兄ちゃん。