【小説】お兄ちゃんと妹
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「なんや、妹よ」
リビングのソファに寝転がってスマホでラインをしていると、キッチンから俺の背中越しで、テレビを見ていた妹から、眠そうなとろんとした声で話しかけられた。
「私、彼氏と別れたんやけど」
「はいっ!?」
予期せぬ言葉に、スマホを取り落としてしまう。
驚きが多すぎて、落ち着きが急速に遠のいていく。
「クリスマス前やのに独り者になってもうた、どないしょ~」
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て」
ほんわかした声のまま、話を進めようとする妹に俺は全力で待ったをかける。
「状況を整理させろや!」
「ん~?」
妹がくたりと首を曲げる。
首を曲げたいのは俺の方で、疑問があるのも俺の方だ。
「えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? 別れたって? そもそも彼氏いたんか? お前、妹が、彼氏って? えっ?」
「うん、いたよ~」
「聞いてへんわ!」
俺は全力でソファの上で地団駄を踏んだ。
俺の妹に彼氏! 兄貴に報告のないまま、いつの間にか付き合ってましたって!?
中一の妹に彼氏! こんな純粋無垢で、高二の兄貴と休日にごろんっと、リビングでまどろんでくれる妹に彼氏! 許容できひんわ! そいつの存在!
「妹、そいつと別れてこいや!」
「だから、別れたって~。お兄ちゃん、変やな~」
ころころ笑う妹に俺はその彼氏に殺意を覚える。
俺の妹をたぶらかした上に、捨てやがっただと!?
駄目だ、耐えられない。
「妹よ。お兄ちゃんに黙ってそいつの連絡先をいうんや」
「駄目やって、お兄ちゃん、目が怖い」
「なんでや!? ちょっとうちの妹と付き合ったという奇跡の代償を回収しに行くだけやろうが! 地獄まで追い込まんと!」
「クリスマス近いのに、地獄はないんちゃうかな~、お兄ちゃん」
妹に若干ひかれながら、気の収まらない俺。
「ふっふっふっ」
なぜか噴き出すように笑う妹。
「なにがおかしいんや! 妹よ!」
「え~? お兄ちゃんはおかしいな思うて」
「俺をおかしくさせとるんわ! お前やで! 妹よ!」
「そうなんや、悪い女やな~、私」
そういってにっこり妹に笑われてしまうと、俺はなにも言えなくなってしまう。
「……そういや、クリスマスどうするかっちゅう話やったな」
「せやね~、一人で街中歩いてたら声かけられるんかね~」
「わかった! お兄ちゃんとルミナリエでも行こう! な!? 色々な意味で心配や!」
「ええのん?」
「ええもなにもあるかいな、決定! ほな決定や!」
スマホを拾い、クラスの女子へとクリスマスの予定をキャンセルする連絡を泣く泣く打つ。
「お兄ちゃん、ありがとうな~、大好きやわ」
けど、妹に素直に感謝されてしまうと、仕方ないと許せてしまう気持ちになる。
やれやれ、俺はいつになったら妹離れできるんだろうか?
妹サイドに続きます。