【書評】神去なあなあ日常
ろぽんでございます。
三浦しをん作の林業小説の紹介になります。
斜陽産業である林業、昔から伝統のある林業、スギ花粉などで花粉症を想像してしまう林業。職業としてはマイナーで、なのに広く知られている林業を職業ものを書かせるとうまさが際立つ三浦しをんが題材として取り上げた小説、それが『神去なあなあ日常』であります。
物語の概要
高校を卒業したら、フリーターで食べていこうとしてた人生に目的をもたない主人公・平野勇気(以下、勇気)が高校の担当教員と母親にはめられて林業をしに、神去村にやってきて七転八倒する一年を描く一人称小説です。
味のあるキャラクターたち
登場するキャラクターがみんな味があって、勇気が就職した中村林業の先輩であり、同居させてもらっているヨキなんかは破天荒で、勇気をよくいじりまわしますが、兄貴分としてかっこいいところもふんだんに見せてくれます。
奥さんのみきはよく町に遊びにいくヨキと好意の分だけ、喧嘩してかわいいし、大事なところで出てくる繁ばあちゃんの存在感がいいです。
あと、忘れてならないのは犬小屋で飼っているノコでしょう。この愛犬はあらゆるシーンでヨキと勇気の近くにいるので、物語の盛り上がりに花を添えます。
中村林業の仲間たちも優しく時に厳しく、勇気を林業の世界へと導いてくれます。
社長である清一のリーダーとしての佇まいもかっこいいし、奥さんの祐子さんはできた人です。息子の山太は勇気になついて、そのやりとりが微笑ましい。
祐子さんの妹である直紀は勇気の想い人なんですけど、勇気にはそっけなくて、読んでいて、勇気と一緒に気持ちがひかれてしまいます。
こういった魅力的なキャラクターたちの掛け合いが読めるのは三浦しおん作品ならではでしょう。
神去村という特殊な舞台
神去村は60代以上がほとんどの昔ながらの村社会です。
村の人たちは、なんでも「なあなあ」ですましてしまいがちで、気が長く、でも山の人たちだから、人の命のはかなさなんかも、結構割り切れてしまったりします。
昔ながらの山の風習がたくさんあって、特に神去山の神様オオヤマヅミへの信仰心を根強くもっていて、この時代で神隠しが起こってしまうそんな場所です。
最後、神去山で林業にも関わる壮大なお祭りを行う訳ですが、そのあり得ないような荒々しい展開に手に汗握る事、必至です。
メインの林業としての描写
林業としてのパートもしっかり描かれています。ちゃんと季節に応じての説明があり、山中での雪起こしの大変さや、切り出す木を選抜する間伐を行い苗木の植え付けを行う苦労を知ります。昔ながらの伝統や技術を駆使しながら、どう現代で林業を継続していくかという中村林業の経営戦略の話もあって面白いです。
メディア・ミックスについて
この作品は映画化もされていて、『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』で、こちらも原作のよさを損なわない形でよくできていますので、お勧めできます。
染谷将太が演じる勇気訳の情けないけど、だんだんと男として成長していく感じや、伊藤英明が演じるヨキの普段の乱暴な言動から、ときおりみせる優しさなんかにグッとくるものがあります。直紀役の長澤まさみがただかわいいというのもありますけどね!
最後に
信頼できる作者さんだからこそ、完成度は高く、文章は軽快で読みやすく、読後感もいいです。あとはやっぱり林業という職業を主人公を通じて追体験していけるのも読んでいて楽しいところですね。
次に読むべき本にもし迷っているようでしたら、損はさせてない一冊になっていますので、是非一度、手にとってみて下さい。
今週のお題「読書の秋」でした。