バスとウチと事業
顔色の悪い太った学生がふーふーいいながら、肩を上下させている。
バスの中で酔ったのだろうか。
それともあまりにも腹の立つ事があって内心を隠せずにいるのだろうか。
ちなみにウチは今どういう顔をしているのだろう。
どっと疲れた顔をしているのか、能面のような顔をしているのか、すっきりした顔をしているのか分からない。
ウチの会社というのは協調性がない。
部門ごとの連携というのをまるで考えずに行動する奴が多い。
しかも部門内でも対立が起こっており、サラリーマンなのに個人事務所の様に仕事をしている。
それでも営利団体として成立しているのは、国から公共の仕事を定期的に斡旋してもらえるニッチな業界だからである。
天下りの人たちも要職に一杯いて、お飾りな管理職が多いが、仕事には困らない。
その為、プロパーはやる気もなく、サボり癖がついていて、言い訳をする為だけに口を動かして、手は動かさない。
けれど国から斡旋してもらえる公共の仕事も、市場が縮小して受注高が減少傾向にあった。
だからといって受注高の穴埋めに、自ら新規事業を開拓する気概のないウチの経営陣がとった行動といえば、新たに民間の事業を買い取って、会社の収益の柱の一つにしようとしたのだ。
それが間違いだった。
だって民間ですよ、民間。
ただでさえ子どもの夏休みの宿題みたいに、仕事を眠らせる事を宿命かなにかと勘違いしている奴らが多い会社なのに、民間のような時間間隔や品質とコスト意識を持てるはずがない。
事業と一緒にこちらに転職となった人たちは、もう地獄だった。
誰かに仕事を教えようにもうまくいかないし、事業の全ての業務の人が移ってきたわけではないので、足りない人材を埋めるのに必死だった。
三年間は今までの貯金でどうにか黒字だったが、その間、クレームの頻発、納期遅延の発生、取引先撤退によるコスト悪化、技術者の流出などが起こり、見事、四年目で赤字となって、今後先の見通しも絶望的だった。
結局、固定費が増えて、利益の出しづらい会社となって、元々やっていた公共の仕事の収益を圧迫し始めた。
終わりである。
上はようやく重い腰をあげて、改善チームを立ち上げた。
そのリーダーが齢28歳のウチである。
なめてるよね。
どかっと大量の資料を渡され、会社の今の経営状況を示されながら、常務と経営管理部から説明を受けて、お前が収益を黒字化するために業務を整流化してこいとのお達しだった。
ウチは転職組で、この会社の協調性がとれないところがよくないと思い、部署間の橋渡しに動き、信用できると当時は思っていた常務(今では憎しみしかない)に報告していた。
組織の為を思って動いていた事が、全部自分の責任の下に今後は仕事を負っていかなくてはならない。
しかもこのチームにおいては、権限上は常務に次ぐ力を発揮する。
各部門の長にも勝るらしい。
けど、別にウチが部長になったわけじゃなく、ただ単に責任だけ、押し付けられただけに過ぎない。
そんな管理職でもない若手女子の言葉なんて、誰がまともに耳を傾けますかね?
ええ、もうこのチームが発足して、一年あらゆる嫌がらせを受けましたね。
「君の言ってることは分からない(だからしない)」「あれ、そんなこと指示もらってたっけ?(もともとするつもりがない)」「そんだけいうなら君がしたらいいんじゃない? リーダーでも実務もできるでしょう(ただ、自分でやりたくないだけ)」「すいません、やっておきます(何度目だよ、お前)」「あれー? 取引先にはちゃんと伝えたんですけどね(お前から何も聞いてないという事は客から裏取りができている)」
こんな事が目白押しで毎日がストレスの連続だった。
そうしてある日、血尿がでてウチは割り切る事にした。
まともにはもう無理!
ウチの会社にも普通な奴は少数ながらいて、そいつらでまわせる分の仕事しかもう受注しない。それ以外の奴らに関しては地獄をみて貰う事にした。
ようは事業の縮小である。
PDCAサイクルが有効な事業規模まで縮めたのである。
その為に誰が誰と結託して仕事の邪魔をし、誰の仕事で損金が出て、誰が品質不良を起こしたのかまで事細かに閻魔帳のごとく資料をまとめあげ、常務にプレゼンし、決裁を獲得したのが今日の事だ。
不要なメンバーと事業から切り離された仕事についてはパッケージ化されて、また売りに出される事になる。技術として欲しがる会社はあるはずなので、買い手はつくはずだ。
会社に損金だした連中はラストチャンスだと思って、次の仕事にがんばってもらいたい。血尿だすまでやったらいいと思うよ、マジで。
大きな仕事の節目になるが、気分は正直よくなかった。
恨まれ事を引き受ける仕事って、ごっそりもっていかれる。自分の体力、気力はもちろん価値観や信頼も。
後はもう、みたくないもの関わりたくないものともやりあってしまったので、私にはもう先がない。
だから転職エージェントに登録しつつ、次の仕事の事を考える。
今度は成長していく会社でがんばっていきたいものである。