バスとオレとイケメン
ラインを未読スルーして、バスの中で、オレはため息をつく。
スマホごしにいるお爺さんには気づかれない程度に。
大学の文化祭で知り合った女子のグループの一人からの連絡だ。
知り合って一週間ほどになるのだが、ひっきりなしに連絡がきてヤバイ。
ことあるごとに今暇かと尋ねてくるし、聞いてもいないのに、自分の事を語りだす。
オレの興味をひこうとしているのは分かりきっていて、露骨に遊びの誘いもやってくる。
ちなみにその時知り合った女子のグループで、他の子からもラインがきていたりするのだが、彼女らのグループでどういった話し合いのもと、オレに三人から連絡しているのかは謎だ。
自分でいってはなんだが、オレは見た目が人より整っているようだ。
だいたい、理由もなく女子にはモテる。
今回の文化祭も文芸サークルに顔を出しにいく前に、春にあった新歓コンパで仲良くなった友達に巻き込まれ、ジュースと間違えて、知らずお酒を飲まされ、意識が混濁している時に知らない女子グループと合流していて、気づいたらライン交換をさせられていた。
ようは友達が女子と仲良くなる為の出汁に使われて今、いい迷惑をこうむっている訳だ。
けど、こういう付き合い方を友達に対して嫌がれないオレも悪いのかも知れない。
あまり人に強くものをいえない性質で、結構押し流される事が多い。
それを「優しい」といってチヤホヤする女子がいるが、それは世に言うイケメンだからという奴なんだろう。
イケメンだから「優しい」となるのだ。
本当はただ押しに弱い「優柔不断」なだけだ。
そして、困った事にオレの好きな子は俺の事を「優柔不断」だとみるという事だ。
「優しい」という子はオレがイケメンだから好きなだけだ。
イケメンだからオレの性格や行動は全て好感度にまわされる。
「口下手」は「寡黙」になるし。
「暗い」は「大人」っぽいになるし。
「あがり症」は「かわいい」になる。
オレはオレを無条件に褒めてくる人間が嫌いだ。
結局のところ、そいつらは「顔がすき」「スタイルがすき」「見た目がすき」なにより「イケメンがすき」といっているに過ぎない。
まったくオレがどういう人間かなんて関係ないのだ。
オレはどちらかというと不器用な人間で、うまく人に対して、自分の事を伝える事ができない。
思っている事を伝える前に、自分の事を人がどう見ているのかがわかってしまうと、気持ちがなえる。
とても心が臆病だ。
そうして、オレのそんな弱さをずばずばといってくる子がオレの近くに一人いる。
オレが情けなくてかっこ悪い男だという事をよく知っている。
それを正面向かってズバリとなんの臆面もなく、言われた時の事を忘れられない。
知り合って間もなくそんな事をいわれて、とても腹がたったのに、どうしようもなく彼女に惹かれた。
羞恥心が怒りに変わり、視界がぼやけて、その熱量が涙となって落ちた時の情けなさと恋しさといったらない。
泣き出したオレをみて、彼女には「キモイ」といわれたけれど。
オレは外見を第一として見られる事に、いつも忌避感があった。
なるべく目立ちたくなく、誰にも見られたくないと思った時もある。
けれど、それ以上にオレは自分の事をちゃんとみてほしかったんだなと、彼女と出会って強くそれを理解したのだ。
けれど、その彼女には彼氏がいる。
彼女の隣の席は、もう出会った頃には埋まっていたのだ。
だから、オレはどうする事もできない。
彼女が彼氏の話をするたびに彼女の顔が輝く。
普段、少し冷徹にみえるその表情が花のように綻ぶのだ。
その時、彼女からもれでる感情はオレにはとても眩しくて、それに反して心が痛くなる。
でも、オレの話しで彼女を笑顔にすることはできなくて、いつも失笑を買ってしまうばかりだから、オレは彼女の幸せそうな顔を見たくて、彼氏の話を聞いてしまうのだ。
彼女は物事をズバリといってしまう性質なので、友達は少ない。
その為、彼女の話を聞ける人間は限られている。
だから、オレは喜んで彼女の話し相手になっている。
オレは彼女が好きで、臆病だから、その距離感の中で今は漂うだけだ。
彼女といると自分自身のあり方みたいなものを考えさせられる。
オレは自分の外見に興味を示す異性が好きじゃない。
けれど、それ以上にそんな事を気にしてしまう自分自身が好きじゃない。
オレは彼女みたいに、自信をもって話せる事が何一つないんだという事に気づかされた。
駄目なところばかりみて、自分の事と向き合う事から逃げているのだ。
イケメンである自分をオレは消化して、受け入れなくてはならない。
そういう風に思えるようになったのは彼女と出会えたからだ。
感謝してもしきれない。
けれどオレはまだ弱く、自分に自信もない。
臆病で、全然駄目だ。
でも、いつかオレは彼女にふさわしい人間になりたいと思う。
付き合えれば最高だが、そこまでは望めない。
ただ、オレの事をみて、気持ちよく笑ってくれる時がきたのなら、オレは自分に対して自信をもてるような気がするのだ。
今は痛みをこらえながら彼女の側にいる。
いずれこの痛みがオレ自身を成長させると信じて、言い訳みたいにオレは希望を祈る。